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でじはうす : プラスアルファな情報を熱量込めてお届けするブログ

大企業に入った瞬間 洗脳されていった友人たちの話

僕の友人には優秀な人物が多く、彼らは大学を卒業後は大企業に入ったり官僚として社会に羽ばたいて行った。僕も偏差値だけ見ればそこそこの学校を出ているのだが、就職活動そのものがいやになった事とWeb制作に興味があったことから、大学卒業後は小さなIT系の会社に就職した。無論友人たちとの収入差は歴然であり時折嫌になることもあるのだが、基本的には仕事は楽しく、それなりに満足な人生を送っている。

そんな僕だからこそ、企業で簡単に洗脳されていった友人たちについて客観的に語ることが出来るのだ。それなりに高い志を持っていたはずの彼らが、卑小で下らない人間になっていく。当然だが、卑小で下らない人間として生きていくということこそが現実的に生きていくということであり、現実的に生きている人間こそ世の中をうまく渡っていけるのだ。つまり彼らは大変正しい道を歩んでいるのであって、僕は彼らを非難する気もないしそんな権利もない。

だが世間一般を見ると、社会に出たての若者がいかに簡単に洗脳されているかがあまりに語られていない。なのでそんな状況について少しばかり考えてみても良いのではないかと思う。

たとえば友人の一人、A君の場合。学生時代の彼は絵に描いたようなリア充であり、テニスサークルに所属しながら学業にもアルバイトにも精を出していた男である。ちょっとひねくれたところはあるが性格も明るくみんなから好かれていた。僕は一度彼と引っ越しの短期アルバイト一緒にしたことがあり、そこで目前に差し迫った就職活動について色々と意見交換をしたのだ。

わりと一般的な傾向かもしれないが、リア充というのは大体頭も悪くないし基本的には優秀な人物が多いのだ。ただここで言う「優秀」というのは、考えている事は薄っぺらく知性には欠けるが、ある集団の中のコードを察知してそれに応じた行動を取ったり、自分が損をしないためのリスク計算をすることに長けている、ということだと考えて欲しいのだが。

A君はそのような意味でも典型的な世渡り上手系のリア充であり、相手の下手に出ることもとてもうまく年上から好かれやすかった。しかしこのアルバイトの時に僕はA君と色々話し、上記のようなそれまでのイメージとは少し違った人間であることがわかったのだ。A君は大学卒業後の自分のキャリアや世の中のあり方についてとてもよく考えている男だった。僕があまりに何も考えていなかったからショックを受けただけかもしれないのだが、今考えてみても当時のA君は良い意味で意識が高かった。

これまでアルバイトや大学の授業を通じて考えてきた、世の中に対する違和感のようなものや、自分がそれに対してどのような事が出来て、そのためにはどういうキャリを送るべきかといった事を、実に理路整然と語るではないか。それまで彼を平均的なリア充として蔑んでいた僕も、さすがに見方を変えざるを得ず、自らの偏見を反省した。そして自分のなにも考えていなさを痛感し、少し恥ずかしい気持ちにすらなったものだ。その後も何人もの友人と将来について真剣に話し合う機会はあったのだが、結論からいえばA君はとりわけ優秀だった。

その後A君は某金融系の大企業に就職し、しばらく会う機会もあまり無くなった。

ふたたび彼に会ったのはそれから約3年後、共通の友人の結婚式での事だった。就職してからの3年間で彼に何が起きたのかはよく分からない。しかし彼の顔を見た瞬間に、僕にはA君に何か決定的な変化が生じ、後戻りの出来ない領域へ行ってしまったということを悟った。

はっきりとした変調は、彼のエラに現れていた。A君の右側、こちらから見て左側のエラが異様な武骨さを帯びている。正面から見ると明らかな左右非対称を示しているA君。かつての目の輝きや肌のツヤはそのままであるにも関わらず輪郭だけがいびつになっている。そのような男を僕は見たことがなかったので、しばらくの間唖然としてしまった。式での新郎新婦の指輪交換、披露宴でのプロフィールムービーなど、完全に上の空である。

「どうしてこのような事になるんだろう?」と僕はひらすた訝しんだ。

そしてある一つの結論に達した。

彼は右側の奥歯でしか食物を咀嚼していないのである。

はじめはぼんやりとした推測でしか無かったが、それはやがて確信へ変わった。披露宴で出される料理の全てを、A君は右側の奥歯でしか噛んでいない。その光景を見ながら、僕はさらにA君にそのような慣習が身についた原因を考えてみた。そして自分なりの理屈を立ててみたのである。

ビジネスマンたるもの、思考の論理性こそが最大の商売道具である。そして一般的に、それを支えるのは脳の中では左側、つまり左脳であるといわれる。そして、脳と脳以外の身体部位は、左右逆に連結している。要は右手や右足は左脳に、左手や左足は右脳の活動に影響をおよぼすのである。

僕が何を考えたか、もう分かったと思う。A君はこの3年間、左脳の論理的ドライブを高める為に、「食べ物を噛む」という行為の全てを右顎だけでこなし続けているのだ。

すべてを見通した僕は戦慄した。A君はビジネスマンとしての自らの価値を高めるためなら、顔面が左右非対称になっても構わないという、圧倒的な覚悟でもって日々を生き抜いているのである。