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でじはうす : プラスアルファな情報を熱量込めてお届けします(旧・なつみ憂のブログ)

tofubeats『POSITIVE』レビュー - シニカルでもアホでもなく

フランスのエレクトロデュオ、Justiceのギャスパール・オジェは2011年のインタビューで自身の音楽性を問われてこのように答えている。

『いまの時代はシニカルかアホかのどちらかに偏りすぎていて、ナイーブさに欠けるよね。僕たちは60〜70年代にあったようなロマンティックなセンチメンタルさを併せ持っているんだ』(bounce337より)

フランスの富裕層の出であり、2000年代のダンスミュージックシーンで最大の成功を収めた人物から発せられる言葉としてはあまりにも素朴な印象を受けるが、ギャスパールのキャラ(Ed Banger屈指の天然)から考えてみても、当時の自身のスタンスと世界観を正直に語っていたのだはと思う。確かに、「シニカルとアホ」しかいない世界に僕ら生きている。知性と情熱のはけ口を見つけられず斜に構えたまま途方に暮れる者と、心身の余裕を失い安易な快楽に耽る者しかいないように感じられるのだ。それを端的に示すTwitterというWebサービスが震災を機に日本で一気に浸透したのが奇しくも2011年。当時のギャスパールの感慨は僕たちの絶望と結びついている。

tofubeatsのメジャー2枚目アルバム『POSITIVE』は、そのような悲しい二極化に対して第三の道を示しているように思う。

T-SITEのインタビューでも語っているように、『POSITIVE』は4月に発表されたEP『STAKEHOLDER』を「陰」とした文字通りの「陽」としてはっきりと位置づけられる。『STAKEHOLDER』はメジャーアーティストの参加も無く、ある意味ではtofubeatsが自身の音楽性や身内との戯れに自閉した作品となった。僕個人としてははtofu君が高校生の時からのファンあるので、こういうコアな面をいまだに楽しめるという事は実に嬉しいものの、もう少しライトな音楽好きからするととっつきにくい部分もあったことは否めない。インタビューを参照すると、1枚目のアルバムで自身の「陰と陽」をかなりはっきりと自覚したようである。

 

『前もいろんな色はあったけど、どどめ色みたいなのもあったので(笑)。』

『1stアルバムでは、陰と陽を1枚に詰め込んだけど、EP『STAKEHOLDER』とアルバム『POSITIVE』は対になっていると、自分でも思っています。』


僕の印象としても、『First Album』にはtofubeatsのミュージシャンとしての作家性と、リスナー・DJとしての批評性がいっしょくたになっていたように感じる。このような痛快な混沌を快楽として受け入れることはもちろん可能ではある。ただ、アイドルに対する批評的な視座、ファンクネスやディスコの解釈、そしてトラップのような現行のビートの取り入れ方など、個々の特徴が互いに座席を譲りあったまま電車が駅に着いてしまったかのような、聴き終えて発見されるような空白が見られた。しかし『STAKEHOLDER』と『POSITIVE』でアプローチを完全に使い分ける事で、1stの空白は事後的に完全に埋められたように思う。

そしてもちろん『POSITIVE』は単に前作の反省にとどまるものでは無い。

タイトルトラックの「POSITIVE feat. Dream Ami」は自身もそう認めているように、全くtofubeatsらしさが無く、一聴するとまったくもって自己啓発的な歌詞である。このアルバムが『STAKEHOLDER』の対極であることが、ここで表明されている。この曲になにかマジックが起こっているとすれば、それはひとえにボーカルにAmiを迎えたという点に尽きる。

安易にポジティブな振る舞いをすると、「イタい」人物として白眼視される。現代のあらゆる同調圧力は、こうした「イタさ」をいかに回避するかという個々人の思惑が凝縮して作り上げた磁場であるように感じられてならない。つまりどこかに所属したければ、イタいと思われてはいけないので、ポジティブネスは結果的に損なわれる。

そうしたゲームを下らないと感じればシニカルに陥るしか無いし、初めから仲間に入れてもらえない人たちはアホになるしか無い。ギャスパールが言っていた事を日本的に言い換えればこういうことだと思う。

Amiはこうした「イタさ」を感じさせない稀有なボーカリスト/パフォーマーである。故にシニカルにもアホにもならず、ある枠の中でのポジティブを提示できる。tofubeatsの詞は、こうしたAmiのキャラクターを非常に的確にとらえているように聞こえる。そしてこのマジックが、アルバム全体に本質的な「ポジティブ」をもたらしている。

『POSITIVE』が示したポジティブの可能性とはなにか。

ポジティブなモード、前向きな気持というのは個人の中にあるものではなく、関係性の中に見いだされるものである。「POSITIVE feat. Dream Ami」では、前向きな気持ちは「わたし」の中で生まれたり消えたりするのではなく、相手への期待やお互いの心が通い合うことで形作られるのだという事が示されている。

ちょっと笑顔になってよ
きっと世界は発展
今日は踊ってください
未来には期待したいし
ちょっと遊びにいって
きっとふたり笑ってるから
今日は大丈夫
さあ dancinthruthenight

国や世界に対して過度な期待やその裏返しとしての絶望を抱えている若者が多い昨今、「きっと世界は発展♪」という、お気楽すぎると眉をひそめられかねない節回しのフレーズはむしろ新鮮に響く。そして「きっとふたり笑ってるから 今日は大丈夫 さあ dancinthruthenight」と、目の前の関係性を大切にし、ダンスによって身体性を回復することで本質的なポジティブにたどり着こうとしている。

ただし関係性だけではなく、僕達の中には僕達のエゴもある。『STAKEHOLDER』のような閉じた振る舞いと、『POSITIVE』のような関係性と身体性を軸とした期待感のバランスの中で生きていくことが、当面は最良の生存戦略なのかもしれない。